上野原遺跡と写真撮影〜博物館のジレンマ
東京、大阪方面から鹿児島へ向かう飛行機は、空港への着陸態勢を取るため、ちょうど上野原遺跡の真上辺りで高度を下げ旋回に入ります。多くの乗客はその時、地上の上野原遺跡を最初に目にすることになります。遺跡見物人にとってはとても心地よい一時です。
上野原遺跡が発見されたときは大きな話題になりました。鬼界カルデラの大爆発によって噴出した火山灰の下に縄文時代早期の村跡が埋まっていた。という現実は「元祖縄文人は北から徐々に列島に広がっていった」ということを信じていた多くの人達をどれだけ慌てさせたかは想像に難く有りません。これだから新たな発見は面白い。北からの流入に比べて数は少ないでしょうが、やっぱり南からのルートもあったんでしょう。前期の曽畑式土器が沖縄や朝鮮半島からも出土しているということを見ても、縄文人がかなりの航海技術を持っていた様子がうかがえます。
上野原遺跡を最初に見物に言ったときときは簡素な展示室と売店があるだけでした。今では豪華な博物館と埋文センターが建てられ、縄文の森と銘打った観光地として売り出し中です。いわゆる新装開店ですね。私は博物館へ行くと、とりもなおさず「写真撮ってもいいですか」と聞きます。上野原遺跡の展示室に始めて来たときは「とうぞどうぞ、いっくらでも撮って下さい」てなことを言われたんですが、新装開店後は予想通り館内撮影禁止でした。実際問題としてフラッシュやストロボを使った撮影では展示物に影響を与えるということはあるかもしれません。もっともデジカメなら少々暗く写ってもパソコンで修正できますから、「博物館のなかでフラッシュをたく必要はない」と言えると思います。地方の博物館ではカメラオーケーの所はよく見かけます。
長野県の某博物館で、見物人がたまたま私一人だった時に「写しても良いですかと尋ねられてしまえば、規則上だめですと言わざる得ませんので、いまのは聞かなかったことにします」てなことを言われたこともあります。私はこの言葉を「見て見ぬ振りするからどうぞ」と解釈しました。
諸外国の博物館では「写真撮るなら図録を買え」というのは過去の話で、「撮影可、ストロボ不可」というのが主流になりつつあるそうです。そういえば尖石の考古館でも以前は撮影不可だったのが新装開店したら可になっていたように記憶しています。ただし実際問題として日本では規模の大きい博物館で「撮影可、ストロボ不可」が認められないのは、見物人のモラルの問題で、フラッシュを平気でたいてしまう人が後を絶たないという面もあるようです。埼玉の水子貝塚館では土器が盗難にあったという事もありました。博物館の関係者の方々も「基本的なモラルも守れねーやつは来るんじゃねーよ」と叫びたいところでしょう。見物人にとってより身近な博物館であろうとするとセキュリティーが問題になります。難儀ですね。