こぶとりじいさん(島根編)
全国的に広く流布している『こぶとりじいさん』のあらすじは以下の通り。
『昔あるところに、片方の頬にこぶのあるおじいさんがふたりいた。おじいさんのひとりが神社で「こぶが取れますように」とお祈りしていると、神社に天狗(または鬼)たちがやってきたので、おじいさんは物陰に隠れた。天狗たちは踊り始めた。最初は怖かったおじいさんも、天狗たちがあまりに楽しそうなので、つい出てきて一緒に踊り出した。おじいさんは踊りが上手だったので天狗たちは喜び、ごほうびにおじいさんのこぶを取ってくれた。
その話を聞いたもうひとりのおじいさんは、自分もこぶを取ってもらおうと、神社に行って物陰に隠れた。同じように天狗たちがやってきて踊り出したが、怖くておじいさんは出ていくことができない。そのうち天狗たちに見つかってしまった。「おまえも踊ってみろ」と言われたが、腰が抜けて踊れなかった。天狗たちは怒って、もうひとりのおじいさんから取ったこぶを、このおじいさんのもう片方の頬にくっつけてしまった。』
島根に伝わる『こぶとりじいさん』も結末は同じだがテイストが少し違う。
『昔あるところに、片方の頬にこぶのあるおじいさんがふたりいた。おじいさんのひとりが神社で「こぶが取れますように」とお祈りしていると、神社に天狗たちがやってきたので、おじいさんは物陰に隠れた。天狗たちは踊り始めた。最初は怖かったおじいさんも、天狗たちがあまりに楽しそうなので、つい出てきて一緒に踊り出した。おじいさんは踊りが上手だったので天狗たちは喜び、ごほうびにおじいさんのこぶを取ってくれた。
その話を聞いたもうひとりのおじいさんは、自分もこぶを取ってもらおうと、神社に行って物陰に隠れた。同じように天狗たちがやってきて踊り出したので、おじいさんも出てきて踊り出した。このおじいさんも踊りが上手だったので天狗たちは喜び、ごほうびにもうひとりのおじいさんから取ったこぶを、このおじいさんのもう片方の頬にくっつけてあげた。』
島根の天狗にとって、「ごほうび」って一体何なんだろう……。
鼻そぎ権兵衛
昔あるところに、権兵衛さんという働き者の農民が住んでいた。
ある日、お城の殿様が鷹狩りに来るというので、近所の農民たちは殿様を接待するために色々なものを宿泊先に届けた。貧乏な権兵衛さんにはこれといって差し出せるものもなかったが、何もしないわけにもいかない。結局おかみさんのアドバイスで大根を届けた。
ところが、この大根を殿様が大絶賛した。殿様が鷹狩りを終えてお城へ戻った後も食べられるよう、権兵衛さんはお城へ大根を届けよと命じられた。
権兵衛さんは首をかしげた。「そんなにうまい大根なのか?」試しに食べてみたが、殿様にとっては新鮮な味覚である大根も、権兵衛さんにしてみれば普通の大根である。権兵衛さんは解せぬまま、それでもお上の命令なので大根を持ってお城に参上した。
ところがこのことがどこからかお上に漏れてしまった。「殿様の召し上がるものを先に食べるのは重罪」ということで、権兵衛さんはしょっぴかれた。「もっとうまいものを殿様に食べてもらいたくて、工夫しようと思って味見したんです」と権兵衛さんは必死に言い、お奉行さまもその言い分に同情するが、しかし決まりは決まりということで、斬罪は免れない。命まではとられなかったが、権兵衛さんは立派な鼻をそがれてしまった。
それからというもの、あれほど働き者だった権兵衛さんが、ぴったりと野良仕事をやめて家から出なくなってしまった。おかみさんがその理由を尋ねると、「鼻がなくて恥ずかしいから」だという。おかみさんはそこで考えた。「じゃ、夜中の真っ暗な間に、どじょうをとるのはどうかねえ。そうしたらそれをわたしが町に出て売ってくるから」「うん、それなら人に会わなくてすむ」
権兵衛さんは人々が寝しずまった頃に家を出、おかみさんのつくってくれた鼻かくし(穴のあいた銭に糸を通し、マスクの要領で耳にかける)をしてほっかむりをかぶり、夜な夜などじょうをつかまえた。それを朝一番におかみさんが町で売り歩く。誰よりも先に売り始めるので、どじょうは売れに売れた。ついに権兵衛さんの家は大金持ちになったのだった。